- イタリア好きが嵩じてついにはフィレンツェに移住までしてしまったCollezioneイタリア特派員Noriによる、「イタリアよもやま話」。
- ちなみに「Bollito Misto」とはいわば「ごった煮」のこと。
- 自動車、自転車、食事にワインやサッカーはもちろん、たまには真面目な社会的な?お話を勝手気ままにお届けします。
シトロエンは魔性のクルマである。
ここでは旧いシトロエン。特にハイドロ・ニューマチックシステムを装備したものを指す。
その構造はもとより、アイディア、デザイン、インターフェイスにいたるまで、いわゆる我々が日頃接している「フツウのジドウシャ」とは明らかに一線を画するといってもいい個性派である。
技術的かつ専門的なことは、何もわざわざ私がここで語るべきことではないだろうから、あくまで、個人の経験に基づく観念的、官能的な部分について話をしたい。
通称ハイドロのシトロエンとは、あくまでマニア目線ではあるが、DS、GS、SM、CX、BXあたりを指すので、これらをメインに話をしたい。
しかし、なぜいきなりシトロエンなのかというと、実は先日帰国した際にコレッツィオーネで妙齢のCXパラスと出会ってしまったからに他ならない。
ああ、単純で申し訳ない。
これらのシトロエンの何がスゴイのかと言えば、それはもう、他とは全く異なるアプローチでクルマのあり方を定義していることがスゴイ。
ハイドロがもたらす極上の乗り心地は、凪いだ水面を走るボートそのもの。これは世に言う「乗り心地のいいクルマ」とは全く次元の異なる感覚であることを断っておきたい。
また、その乗り心地に合わせたかのようなシートの作りとすわり心地。運転時のインターフェイスになるスイッチや計器類のデザインなど、他のクルマは古今東西すべて「ほぼ同じモノ」であるのに対して、全くの「別モノ」といえる世界がそこにはある。
そこに来てあのデザインである。
あの外装デザインにして、これらの中身というのは違うと個人的に思う。
この頃のシトロエンは「イッちゃってる」中身を具現した外装なのではないかと思っている。
ちなみにジウジアーロ御大をはじめ、マルチェロ・ガンディーニなど名だたる世界的カーデザイナーたちが「もし、関わることのできるプロジェクトがあるとするなら?」という質問に対し、そのほとんどが「DS」と答えている事実からも、いかにDSが圧倒的な存在感があったかが伺い知れる。
とはいえその佇まいや独特な世界観に好き嫌いはあるだろう。
しかし、ここまでやり切ったクルマはそうはないと思う。それだけに、もしも食わず嫌いの方がいらっしゃるようならば、ぜひ一度触れてみることを強くオススメする。
エンジンキーをひねると、「シューッ、カッ、シューッ、カッ」とロボットの活動音のようなノイズとともに、まるで生き物のように車高を上げるのだ。
あの瞬間だけはクルマとは思えない高揚がある。
かくいう私も根っからのイタリア車党だが、20年ほど前に唯一BX(ブレック)に浮気をした。新車同様で手に入れ15万キロほどを共にしたが、今もなお忘れじのクルマになっている。
BXはDSなどに比べると相当地味で庶民なクルマだといえるが、それでも十二分に街中で際立つ外装デザイン(マルチェロ・ガンディーニ作)と、絶品の乗り心地が本当に素晴らしかった。
とまあ、シトロエンは乗るとアブナイ、毒の華である。
甘美なエンジン音や、猛烈なスピード、圧倒的な剛性感を楽しめるわけではない。
ただ、彼らはクルマはそれだけじゃないということを、実にあっぱれに教えてくれる。
まさに「ハマる」クルマといえるだろう。
ちなみに、そんなシトロエンにも、70年に登場したSMというモデルがある。これはマゼラーティの3リッターエンジンを載せ、圧倒的走行性能も楽しめるというツワモノだ。これは当時世界最速のFFカーと謳われており、多くのカーガイを狂わせた。
元オーナーであるイタリア人の友達はこう言う。
「今を持ってミラノ〜フィレンツェ間の最短で移動できたのはSMだった」と。
数多くのフェラーリにも乗った彼をして「どこに行っても注目されるあのデザイン、それにあの走行性能。一生忘れられないクルマだ…。」
そう言わしめるクルマなのだ。
まだ欲しい。また欲しい…。
それではまた近々
A prestissimo!