自動車ジャーナリストで日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
でもある河口まなぶ氏による
弊社商品車・マセラティシャマルのインプレッションです。
同型車種のご購入をご検討されている方は
是非ご参考にされてください。
セラティシャマル(ダジング ブラック)
1992年式 37,000km 車検26年10月
1980年代にマセラティ社復活の礎となったボトゥルボ・シリーズのスポーツモデルとして存在したカリフをベースとして、スポーツ性を強調したモデルとして1989年に発表、翌1990年から生産が開始されたのが「シャマル」である。
ベースであるカリフが既に、ビトゥルボのショートホイールベース版スポーツだっただけに、シャマルはそのエボリューション的な位置づけでもあった。実際に搭載されたエンジンは3.2LのV8DOHCにツインターボを組み合わせて、最高出力326psを達成。これを6速MTを介して後輪を駆動し、最高速は260km/h以上と謳われた。
今回の試乗車は1992年式で、マルチェロ・ガンディーニがデザインを担当したスタイリングは、現在でもハッとさせられるものをオーラとして放っている。ダジング ブラックと呼ばれるボディカラーは今でも艶っぽさを失っておらず、非常に深みのある輝きを放ち、時が経過したことを感じさせない雰囲気を醸し出している。
圧巻はインテリア。レザーがふんだんに使われた室内は、新車当時の空気感を残しているもので、特にレザーは非常に優れたコンディションを保っており、この空間にいるだけで時間が経つことを忘れるような寛ぎを感じることができる。
エクステリアは極めて戦闘的ながらも艶を感じさせるエレガントを含み、インテリアは当時のラグジュアリーを存分に味合わせるシャマルだが、その走りは実は硬派という表現が相応しいものである。
まず多くの人が現代のクルマに比べて、クラッチの重さを意識することになるだろう。加えてクラッチのつながりが上にあるため、床まで踏み込んでしまうと戻しのコントロールに難しさを覚える。またエンジンが極めてパワフルかつトルクフルで低速でも高いギアで扱えるドライバビリティを備える一方、それがゆえにリアデフ等への入力も強いため、ABCのペダルワークには丁寧さと正確さが求められる。現代車のようにガンガン操作してしまうとメカへの負担が大きいだろう…とそこまで思わせるほど様々な情報が身体にインプットされる部分も特徴的だ。
エンジンは3500rpmを超えるまでは適度にトルクがあるエンジンだな、と感じる程度だが、そこから先は一気に力が増してリミットへと達し、リアを激しく沈ませながら加速して行く。そしてシフトチェンジ時には、ウェイストゲートから吐き出される空気の音がハートをくすぐる。しかし気を抜く間もなく次の正確かつ丁寧な操作が求められる。
試乗車は標準よりもハイトの高いタイヤを装着していたため、ややソフトな乗り味を伝えて来たが、それでもハンドリングは非常に落ち着いており、ボディの大きさからは想像できないほどの安定感も伝える。そしてダンパーやタイヤを交換すれば、もっと優れたスポーツ性に溢れた走りを披露してくれることを容易に想像できるフィールに満ちている。
シャマルは圧倒的な性能を、丁寧かつ正確な操作でなければ引き出せないという、高レベルなドライビングが要求される1台だと感じた。同時にこのクルマをしっかりと仕上げて、乗りこなすということは男としての甲斐性を図られている気さえする。そう考えるとシャマルは実に手強い美人といえる1台に思えるのである。
※このインプレッションは当該車両の状態や性能を保証したり、購入時の責任を負うものではありません。あくまで個人の感じた印象を記しています。