Vol.166 「甘ったれ」を許さない風潮への回帰

今回はクルマではなくて映画の話。
大人の事情でビジュアルは割愛させていただく。

昨年春からアニメ化されて、徐々に火がつきコロナ禍の影響による「おこもり」も追い風になったのか、異様にコミックスが売れ1億部突破。
ついで、10月16日から封切りされた映画がなんと3日で46億円の興行収入だという。

 

 

吾峠呼世晴さんの「鬼滅の刃」は、完全に社会現象になっている。
いまや検索で「ごとうげ」くらい入力すれば、この難しい漢字がサラリと出るほど、一般化しているのはいよいよ本物だということだろう。作品の細かい内容については各々お調べいただくとして、ちょっとだけこの作品について語りたい。もちろん個人的な意見ではあるが…。

というのも、こと映画やアニメーションといったエンタメ作品をみるにつけ、なぜかいつの間にか日本は「やさしさ」ばかりを尊重する世の中になっていた気がしていた。それは海外から見ていてもとても顕著で、およそ厳しさというものとはかけ離れた、実に偏った、気持ちの悪い価値観ばかりが尊重されていた気がする。

子どもたちが喜ぶゲームや漫画、アニメも多くの場合「友情」「やさしさ」といった耳障りの良い部分ばかりが強調されていて、とてつもなく甘い、ともすると食傷気味にさえなることも少なくなかった。

もちろんこの鬼滅の刃も友情ややさしさが沢山感じられるものだが、鬼だの滅だの刃だの、物騒な言葉が並んでいることからも想像がつくように、物語の背景は壮絶かつ熾烈、おどろおどろしくも残酷だったりもする、十二分にホラーな作品なのだ。

では何が、ここまでの大ヒットにつながっているのか?
それは、甘いたべものに塩を振ることでより甘さが際立つように、この作品の塩の部分である、厳しい言葉や姿勢、犠牲の精神にこそ最大の魅力があるように感じてならない。

守るから…。なんて言葉が随分とあたりまえになった日本に、本当に気持ち悪さを感じていた人間としては、この作品の冒頭部分に出てくるあるシーンに思わず拍手したくなった。

 

コロナ禍で浮き彫りになったように、世の中甘いことばかりではない。世界情勢を見ても、実は平和なんてものは砂上の楼閣のような脆さがある。
しかし、綺麗事では済まされないのも事実であり、多少の犠牲すらいとわない決意すら必要であることを世界中の人々は痛感しているはず。そうした時代背景も今回の映画の大ヒットにつながっているのかもしれない。

今回封切りされた初の映画化編「鬼滅の刃 無限列車編」は、泣ける映画として広まりつつあるのだが、それは決してスイートな「お涙頂戴」ものでは決してなく、ある種とても昭和のど根性モノにもつながる、叱咤と激励にも近いものからくる「感涙」の類であり、それを表現している制作陣と、声優たちの力作と言えると思う。

美しい映像とともに、非常に楽しめる映画である。
お子様がいてもいなくても、足を運ぶ価値はあると思う。

 

それではまた近々。

 

A prestissimo!!